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現代中国研究資料室について
研究・調査活動
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研究・調査活動―シンポジウム・ワークショップ

史料研究会「若手研究者による現地調査・史料調査報告」

・日時:10月29日(金) 18:00~21:00(参加登録不要・自由来場可)
・会場:明治大学駿河台校舎研究棟4階第2会議室
・報告者及び報告テーマ
土肥歩(東京大学大学院博士課程)
「梁発の「発見」――広東省のキリスト教関係史料を見て歩く」
河野正(東京大学大学院博士課程、日本学術振興会)
「1950年代河北省農村関係史料について」
三橋陽介(筑波大学大学院博士課程、日本学術振興会)
「湖北・江西における民国司法史料の紹介と、台湾の行政機関所蔵文書の利用方法」
久保亨(信州大学)
「補足報告・50年代の史料講読を主とする若手養成セミナー:セミナー開催に向けた国際協力の試みの紹介」

土肥歩「梁発の「発見」――広東省のキリスト教関係史料を見て歩く」
 報告者は自身の研究テーマである広東・香港(・澳門)のキリスト教団体による主に華僑・華人を対象として募金活動を研究する過程で得られた知見を現地の写真・動画を適宜用いつつ披露した。そのうち政治的混乱などの影響により散逸した史料の不足を補うための史跡探訪・碑文史料確認の必要から3つの探訪を扱った。

1 梁発の故郷から考える――佛山高明市荷城区西梁村「梁発故里」探訪
 梁発の家系は民国初期に男系が途絶えてしまうものの、女系は広西・福建の中国人信者と婚姻関係を結び、地域を越えた宗教的連結がうかがえる。また教派に関係なく活動する中国人信者の存在もうかがうことができる。

2 梁発の墓碑から考える――梁発を「発見」する
 梁発の曾孫を妻とする華僑キリスト教徒馮炎公が、鐘栄光に鳳凰崗の墓の存在を知らせ、1920年、墓碑は嶺南大学に移築され記念式典が行われる。しかし、この「発見」の経緯や梁発認識は時代とともに変化する。例えば1920年代の中国では梁発は中国最初の宣教師としてのみ紹介され、太平天国と結びつけて論じられることはなかった。

3 旧「永安村」探訪から考える――東莞市塘厦鎮牛眠埔新村
  1916年に成立したキリスト教村。旧称は永安村で現在の人口約200名全員がキリスト教徒。この村では1916年に張彩廷(太平天国関係者)の紀念碑が立てられるなど、太平天国からの連続性を伝える。

 以上の3例から見ると、辛亥革命以後のキリスト教の高揚、肯定的評価により、梁発は「発見」されるものの、梁発の直系男子孫がいなかったこと、梁氏の地域的拡散などにより、永安村のように太平天国との関連で説明されるようになるまでには時間を要した。
 墓碑・紀念碑は文献資料のように主体的に歴史を語ることはないものの、これらの成立背景を調べていく中で、キリスト教史における華僑・華人の存在が浮き彫りとなり、時代とともに変化する梁発をとらえることができる。

質疑・意見
・ 中国で太平天国に注目が集まるのは1930年代になってからではないか、という質問に対しては、会場内から北洋時期に教科書には太平天国の説明があるこるとの発言があった。
・ 蔣介石が1927年にキリスト教に入信するが、宋美齢の一族は宣教師の家系で、1920~40年代の国民政府はキリスト教を通じても欧米と繋がっている。49年以降は愛国主義のキリスト教は大陸に残る、という傾向がある。この流れを踏まえて説明する必要がある。
・ このほか、中山大学の史料状況、中国のカトリック・プロテスタントの住み分けについて意見が出された。

河野正「1950年代河北省農村関係史料について」
 報告者は人民共和国建国初期から50年代までの河北省農村の社会変化を、社会主義改造・宣伝教育の側面に注目し研究を行っている。本報告では、その過程で訪れた省内の檔案館、研究機関所蔵の史料状況、またフィールドワークについても言及があった。報告は適宜現地の写真を交えて行われた。

各地檔案館事情
河北省檔案館
開室時間:8:30~11:30、14:00~17:00
申請方法:オンラインもしくは(FAX or 郵送)にて申請。
必要書類:申請書・パスポートコピー・紹介状(日本の研究機関のもの可)・論文の概要・閲覧予定の檔案リスト。
特徴:中央・華北局から省委員会・省人民政府への指示、省政府・省人民政府から上級への報告、県区への指示など。省より小さな地域・特定の合作社などについて追うには不便。

石家荘市檔案館
必要書類:紹介状・パスポート。事前申請不要
特徴:省委員会・省政府から市委員会・市政府への指示、市級から省級への報告、県級への指示が多い。

邢台県檔案館
特徴:山区の農村に関する史料が多い。

南開大学歴史学院中国社会史研究中心
必要書類:研究中心の教授に閲覧を希望を申し出る。
特徴:以下のようなコレクション
喬欽起工作筆記:邢台路羅区政府、路羅人民公社などで活躍した喬欽起による工作ノート・書類など。1949~80年代までのもの。喬欽起の息子喬福錦の寄贈。
侯家営文書:河北省秦皇島市昌黎県侯家営における1949年以降の檔案・書類。また個人檔案も収蔵。該地区は『中国農村慣行調査』対象地域である点でも興味深い史料群。

フィールドワーク・河北省邢台県(09年5月、7~8月)
喬欽起・喬福錦父子のネットワークを利用して邢台県前南峪・路羅・白岸・桃樹坪を訪問。村の歴史、喬欽起を取り巻く環境、社会主義化などについて、主に座談会方式で聞き取り。邢台方言、インフォーマントとの関係、また「作られる」記憶などの点で問題もあるため、聞き取りの形式を取りながらも、実際は史料収集も大きな目的とする。

質疑・意見
・ 49年以前には存在していたと思われる各種結社の存在は感じられたか、との質問に対し、そういった雰囲気は無かったとの回答を得た。
・ また檔案館の利用について、県級の檔案館では草稿・筆記のコピーが認められない所があったことなどが説明された。

三橋陽介「湖北・江西における民国司法史料の紹介と、台湾の行政機関所蔵文書の利用方法」
報告者は中華民国国民政府の司法制度を専門に研究を進めている。その過程で利用した中国大陸・台湾にわたる檔案館が詳細なレジュメを用いて紹介された。

湖北省檔案館
必要書類:パスポート・紹介状(大陸の大学あるいは機関の「公印」のあるもの)
特徴:デジタル化が進み、検索機能も充実している。湖北省政府檔案・同民政庁檔案の多くはすでにデジタル化されている。
複写・利用料:A4サイズは1枚1元。閲覧費・保護費として毎巻3~6元かかることもある。毎巻1/2あるいは1/3の制限がある。

秭帰県檔案館
1942年以前の檔案は焼却されたと言われており、現存するものはそれ以降のもの。

江西省檔案館
必要書類:江西省外事部局の同意を必要とする。中国の大学の紹介状やパスポート、研究概要などを以て外事弁口室を訪問し、紹介状を発行してもらう。
特徴:複写不可。目録の電子検索も厳しい。閲覧費は毎巻20元と高額。

国家檔案管理局(台湾)
必要書類:パスポート。web上から檔案の申請ができる。
特徴:国史館に移管されていない行政文書が保管されている。個人情報に関わるものは非公開。
複写・利用料:A4サイズ1枚2元。

質疑・意見
・国家檔案管理局の複写方法について質問があった他、中国国内の檔案公開を日本の司法関係文書の公開と比べた場合、必ずしも厳しいとは言えないのではないか、という意見が出された。

久保亨「補足報告・50年代の史料講読を主とする若手養成セミナー:セミナー開催に向けた国際協力の試みの紹介」
 報告では2010年9月18-19日に上海で開かれたシンポジウムの内容が紹介された。現在、華東師範大学・カリフォルニア大学バークレイ校・ハーバード大学で若手研究者養成計画を策定中で、その計画実施に向けた準備会議での話題が中心となった。
 本計画では1950年代の中国社会を明らかにするために、檔案・民間史料・公的文献の読解を通じて、1950年代の史料読解力を身につけた若手養成が課題。中心人物は張済順・葉文心・William Kirbyの3人。

若手研究者の関心・研究姿勢・史料読解について
 華東師範大学・復旦大学では1950年代を研究テーマとする院生は増加しているものの、大半の学生のテーマは小さく、歴史認識を大きく変えるような議論は不足している。ただ、大きなテーマを扱うだけの中央の文書が未公開であるため、必ずしも学生だけの問題とは言えない側面もある。また史料がどのような状況下で、いかなる目的のもと作成されたのかという点にまで思いを致す史料批判が中国の学生に不足する傾向も指摘された。一方、欧米の学生は近現代中国全体の中で1950年代を議論する雰囲気がある。しかし、修士課程での文書読解は難しく、原資料を読解するのは博士課程以上の院生が対象となる。日本の院生は両者の中間であろうか。

党史と国史をめぐる議論
 従来の1950年代研究はあまりにも共産党史研究に偏りすぎているため、中国史全体の歴史の解明の必要性が提唱される一方で、中国にこだわらず当代史の一部として上海史・女性史などをとらえる立場も表明された。アメリカの若手研究者はチベット・モンゴルなど中華の周辺世界への関心が高い。北京に「国史館」を設置する話があることも話題になった。

1950年代の民衆運動をめぐる議論
 自発的な運動というより、上からの動員という側面が強かったという認識で一致。ただ1950-70年代の中国で起きた民衆運動は全て上からの強制であった、という意見が存在する一方で、動員を利用して自らの利益を図ろうとした民衆がいたことを指摘する意見もあった。

その他
 中国・アメリカなどでの新しい動きが入ってきた際には極力伝えるので、若手の皆さんも積極的に応じてほしい。
 今夏、南京の江蘇省檔案館を訪問したが、大学の系の紹介状ではなく、大学の紹介状が必要であった。

質疑・意見
・国史館構想について詳細を知りたい→中央檔案館の文書のうち、政府の檔案を公開を想定していると思われる。
・1950年代の研究は当時の国際関係をも視野に入れたものか? →そういう視点の学者が参加しているのは確かだが、実際に使える史料は地方の檔案。そこにギャップがある。
・アメリカの研究者のうち中国系の研究者の割合は? →特に意識して調べたことは無いが、ゼミの参加者の名簿などを見ても中国系の学生が増えているのは確か。中国系の研究者が増えることは意義のあることだが、他の地域の研究者が中国の研究をせず、中国の研究をするのは中国人だけ、というのは、中国にとってもよくない。

総括討論
・(三橋さんに対して)日本では司法関係の文書はどの程度公開されているか。日本の場合も関係者のみにしか公開していない裁判記録も多く、必ずしも中国の公開状況だけを問題とするべきではない。
・(三橋さんに対して)台湾の最高法院檔案について:最高法院の文書が調査されつつある。ただ現在も「生きた法」であるため土地の権利などで大陸との間に問題が生じる可能性もある。
・(久保さんに対して)アメリカの中国研究の情況について:アメリカの一般的な中国理解に中国研究が規定される側面がある。まずは中国はこういうところだ、という紹介が必要。また研究者も博士論文を出版して就職、さらにもう一冊本を出版してキャリアにつくというシステムがあまりにも確立しているため、彼らの関心は自分の研究テーマに関しては深いが、それ以外は狭い場合も多い。中国での研究は、すでに前提があるため、かなり専門的なものでも許容される。日本の場合は両者の良い面・悪い面を持っている印象。日本人研究者に求められるのは、中国人並みの史料読解能力を身につけながら、アメリカ人並みの広い問題意識で問題を立てていく、それをやらないと日本の中国研究は意味が無くなる。

報告者紹介
土肥 歩(どひ あゆむ)…

東京大学大学院博士課程。中国キリスト教史。

河野 正(こうの ただし)…
東京大学大学院博士課程、日本学術振興会特別研究員。中国近現代農村史

三橋 陽介(みつはし ようすけ)…
筑波大学大学院博士課程、日本学術振興会特別研究員。中国近現代司法史

久保 亨(くぼ とおる)…
信州大学人文学部教授。東洋文庫客員研究員。中国近現代経済史。

文責・
関智英(東京大学大学院)

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