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研究・調査活動―シンポジウム・ワークショップ |
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東洋文庫現代中国研究資料室共催「日韓の中国近現代史研究者交流の集い」
・日時:1月9日(土)10:00-17:00
・会場:東京学芸大学 N411教室
・報告者と報告テーマ:
第1セッション「研究動向」
田中剛(神戸大学)「在日本2008年的中国近現代史研究」
河世鳳 (海洋大学)「最近韓国的近代東亜史研究動向」
第2セッション「ジェンダー史」
須藤瑞代(ロンドン大学)「近代中国的男性「女権」論者」
千聖林 (韓南大学)「談論及現実関于1920年代中国人的恋愛與性」
第3セッション「経済史」
金賢貞(高麗大学)「義和団運動時期中国海関的常関税管轄」
吉田建一郎(日本学術振興会)「19世紀末至20世紀30年代中日鮮蛋輿蛋品貿易」
第4セッション「フィールド調査と歴史研究」
金亨烈(東義大学)「山東地区城市史研究現況輿調査研究方法介紹」
佐藤仁史(一橋大学)「從田野調査看近現代江南農村的“生活世界”」
第1セッション「研究動向」 司会:白永瑞(延世大学)
報告: 田中剛(神戸大学)「在日本2008年的中国近現代史研究」
河世鳳 (海洋大学)「最近韓国的近代東亜史研究動向」
第1セッションでは、日本及び韓国における中国近現代史の研究動向がお互いに紹介された。コメンテーターの中村元哉氏からは、韓国の研究動向において、前回に比べ、今回の報告からは、韓国の研究動向において、国民国家論の視点からの研究が減少していることが指摘された。また、司会の白氏から、(会議が2年に1回なので)今後は、過去1年ではなく、2年分の研究動向を紹介する必要があるという問題提起がされた。
第2セッション「ジェンダー論」 司会:鄭文詳(暻園大学)
報告: 須藤瑞代(ロンドン大学)「近代中国的男性「女権」論者」
千聖林 (韓南大学)「談論及現実関于1920年代中国人的恋愛與性」
第2セッションでは、ジェンダー論からの研究が発表された。まず須藤報告では、清末民初の主要な男性女権論者3名-梁啓超、馬君武、金天翮の女権論が比較検討され、彼らの論の共通点として、女性の状況と国家社会の文明度が比例することと、彼らが「未来」の理想の女性イメージを構築するのと同時に、過去の理想の女性イメージ、すなわち纏足した女性を否定している、と指摘した。
一方、千報告では1920年代にマルクス主義・三民主義以上に青年層に影響力を持った『性史』の著者である張競生の言説が分析された。自由恋愛と優生学の結合は、新文化運動時期における流行的な思想ではあったが、そのなかで、女性の性欲と性の快楽を肯定し、「試婚」や一夫一妻制の否定などを含む「新性道徳」を提唱した張は異色であったことを明らかにした。同時に、彼の言説は特殊なものではなく、中国古代の房中術や当時の知識人たち一般の状況に見られるものである、という指摘がなされた。
コメンテーター及び会場からは、時期が異なる梁・馬・金3名の言説を比較することの意味、男性論者のジェンダー的な影響をどう見るか、当時の学術的・文壇的ヘゲモニー争いのなかで張競生をどう位置づけるか、等の質問が出された
第3セッション「経済史」 司会:城山智子(一橋大学)
報告: 金賢貞(高麗大学)「義和団運動時期中国海関的常関税管轄」
吉田建一郎(日本学術振興会)「19世紀末至20世紀30年代中日鮮蛋輿蛋品貿易」
第3セッションは、金報告と吉田報告を通じて、近代中国経済と当時の国際関係についての議論が展開された。 金報告では、義和団事変と辛丑条約(北京議定書)によって、海関監督の監督する「常関」を、税務司が監督する「洋関」が管轄する過程から、その役割と限界を指摘した。吉田報告では、19世紀末から1930年代に至る、中国と日本の鶏卵貿易の変遷が扱われ、鶏卵貿易が第一次大戦など世界の動きを受けながら変遷し、1920年代末に鶏卵そのものの貿易は衰微していくものの、1930年前後は鶏卵加工品貿易が盛んになることを指摘した。コメンテーター及び会場からは、「海関」問題を検討した金報告に対しては当時の文脈に即した歴史分析をおこなう必要性が、「貿易」の実態を再考察した吉田報告に対してはグローバルな視点から報告内容を位置づけ直す必要性が指摘された。
第4セッション「フィールド調査と歴史研究」 司会:金承郁(ソウル市立大学)
報告: 金亨烈(東義大学校)「山東地区城市史研究現況輿調査研究方法介紹」
佐藤仁史(一橋大学)「從田野調査看近現代江南農村的“生活世界”」
第4セッションでは、山東を対象とした金報告と、江南農村を対象とした佐藤報告を通じて、実地調査に関する方法論と意義について議論を展開した。両者の報告をうけて、外国人研究者の実地調査が中国の中国近現代史研究者に対して果たし得る役割が確認されるとともに、オーラルヒストリーの
問題についても意見が交わされた。
総括討論 司会:飯島渉(青山学院大学/東洋文庫)、朴尚洙(高麗大学)
総括討論は、主として「東アジアの概念」と「東アジア近現代史研究の今後の展開」について参加者全員で議論した。日本と韓国からこれらの問題を検討し続けることの意味が確認されるとともに、「東アジア」観が日本・韓国・香港・台湾・中国でそれぞれに違っていること、グローバルヒストリーの中で「東アジア」研究を再定位していくことの重要性が同時に指摘された。さらに、現地調査などによる地道な研究を続けていくことの意味も再確認された。
報告者紹介
田中 剛(たなか つよし)… 神戸大学大学院人文科学研究科研究員。中華民国時期の内モンゴル史。
河 世鳳(Ha Sea-bong)… 韓国海洋大学教授。東アジア博覧会・博物館史、海洋史。
須藤 瑞代(すどう みずよ)… ロンドン大学SOAS客員研究員。ジェンダー史。
金 賢貞(Kim Hyun-jung)… 高麗大学大学院博士課程。清末の海関制度。
吉田 建一郎(よしだ たていちろう)… 日本学術振興会特別研究員(PD)。経済史。
金 亨烈(Kim Hyung Yeol)… 東義大学教授。近現代華北の都市貿易と、その社会経済発展への影響。
佐藤 仁史(さとう よしふみ)… 一橋大学准教授。近現代江南農村社会史。
文責・
大澤肇(人間文化研究機構/財団法人東洋文庫)
中村元哉(南山大学)
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